デジタルマーケティングにおける職種のなかでも、「SEOスペシャリスト」は黎明期から必要とされていた職種であり、かつ時代とともに必要なスキルが最も変化し続ける職種でもあります。
世界における検索ニーズで見ると、「SEO Specialist」の検索ボリュームの推移は、かつては「Web Marketer」、現在では「Digital Marketer」と同程度の量をもっており、デジタルマーケティングに関する名称が変化しようとも、SEO Specialstのニーズは増加傾向にあるようです。
昨今では、検索エンジンよりもSNSで情報収集するユーザーが増加したことで「検索エンジン離れ」とも呼ばれる現象が置きていますが、それでも顕在化したニーズに対するプル型のマーケティング手法を用いるSEOスペシャリストが必要であることには変わりないようです。
SEOスペシャリストに必要なスキル
旧来のSEOは「検索エンジンにおける上位表示」を目的としたテクニカルなマークアップ (内部施策) と、外部リンクを増やすための活動 (外部施策) がメインとされており、必要なスキルもその施策知識であるとされる傾向がありました。
しかし現在、SEOは対象ビジネスをコンテンツ化して顕在ユーザーに届ける存在として、下記のようなスキルが必要と言われています。
- 戦略立案スキル
検索ボリュームの多いワードに対し、検索結果での上位表示を目指すだけでは、対象ビジネスを成功に導くことはできません。
そのビジネスがユーザーのどんなニーズを対象としており、それらがどのような検索キーワード”群”をなしているか?を探り出しながら、検索エンジンを通じたコミュニケーション戦略へと落とし込んでいきます。 - 調査スキル
上記のような戦略立案のためには、徹底した調査が必要となります。かつ、ここでいう調査はユーザーニーズを潜在的なところから捉えるだけでなく、検索エンジンに特化した調査ツールを利用した競合調査を行う必要があります。 - テクニカルスキル
ここでいう「テクニカル」は、HTMLやプログラミング言語に対するスキルです。様々な条件によってマークアップルールを変化させる必要があるSEOにおいては、そのルールづくりも必要なテクニカルスキルとなります。 - 研究スキル
検索エンジンの評価基準は常に変化します。他のスペシャリストが発信する情報だけでなく、自身の複数メディア運用による順位変更を通じて、評価基準の変化を日々研究していく事が必要となります。 - クリエイティブスキル
コンテンツの質が重要と言われる昨今、キーワード占有率などの定量的な指標ではなく、ユーザーに信頼されるコンテンツづくりが必要です。それにはライティングにとどまらず、創造性をもった魅力的なコンテンツづくりということで、クリエイティブスキルとしています。
これらのスキルを通じながら、ユーザーに対象ビジネスを見つけてもらい、コンテンツを通じたコミュニケーションから関係性を築く存在が、SEOスペシャリストとなります。
SEOスペシャリストの年収
世界最大手のIndeedのデータによると (2020年5月現在) 、「SEO Specialist」の米国での平均年収は570万円程度 ($52,884) となっています。
「Digital Marketer」を基準とした場合、Digital Marketerの平均年収は650万円程度 ($61,356) であり、それよりは下回る傾向です。
SEOスペシャリストが狭義の「検索エンジン最適化」にとどまっている「SEO担当者」の場合では、国内の求人を見ても同様の傾向が見て取れます。
しかし、上記のような戦略性と創造性に優れたスペシャリストは、職位も含めてより高い年収となります。
SEOスペシャリストとして知っておきたい用語
1. DECAX
「DECAX」は、電通デジタル・ホールディングスの内藤氏によって提唱された、コンテンツマーケティングにおける消費者行動モデルです。
https://dentsu-ho.com/articles/3447
DECAXは、下記の頭文字を取ったもので、フィールドを検索エンジンだけを対象とせず、SNSやデジタルPRなども発見される場としています。
- Discovery (発見)
ターゲットにコンテンツを「発見」してもらうフェーズです。ターゲットニーズが顕在化している場合は検索エンジンが有効ですが、SNSやデジタルPRなどを通じて、潜在層による発見もきっかけの一つとなります。 - Engage (関係)
ターゲットが信頼し関心をもつコンテンツから関係性を深めるフェーズです。繰り返し来訪してもらう事により、エンゲージメントを高めていきます。 - Check (確認)
これまでの信頼などからその商材を利用してよいか?を確認する、購買の手前のフェーズです。広告などの情報も含めて、何らかの理由で離脱されるケースもあり、コンテンツとしての質の一貫性が問われます。 - Action (購買)
その商材を利用するフェーズです。 - eXperience (体験)
利用を通じて体験し、それを共有するフェーズです。また、繰り返し利用するものにおいては体験がその後も続くことになります。これらの体験は、コンテンツを通じて得た信頼が、さらに向上するか否かで、共有度や継続率へと反映されます。
SEOスペシャリストにおいて戦略策定スキルが必要なことは前述のとおりですが、今後はよりエンゲージメントを重視したコンテンツ施策が、質だけでなく事業への影響につながっていくことでしょう。消費者行動モデルは時代とともに変化していきますが、現在の施策の流行として捉えるのではなく、コンテンツとエンゲージメントの関係性を追求することは、SEOスペシャリストに必要な行動です。
2. TF-IDF Cos類似度推定法
「TF-IDF」とは、単語の出現頻度を意味する「Term Frequency」と逆文書頻度を意味する「Inverse Document Frequency」の組み合わせにより、単語の重要度を算出する評価手法です。
インターネットの世界に特定して言うと、世の中の様々なコンテンツで出現頻度が高い用語はIDFにより重要度が下がり、とあるサイト内コンテンツで出現頻度が高い用語はTFにより重要度が上がります。
一方「Cos類似度」とは、用語を何らかの形でベクトル (矢印) 化し、用語同士の類似度をベクトルの角度で示す手法です。2つのベクトルのなす角が小さいほど類似度が高く、大きいほど類似度が低くなります。
このTF-IDF Cos類似度を用いて、検索エンジンやSEOツールは各コンテンツを評価し、検索順位の評価手法の1つとしたり、新たなコンテンツ制作の方向性を示したりしています。
この評価手法には莫大な学習が必要であり、そのために機械学習や深層学習が利用されています。ツールや検索エンジンが用いるこのような手法をブラックボックスとせず理解して多くことも重要です。
変化の早いデジタルマーケティングのなかでも、事業への影響が高いのがSEOスペシャリストに課せられる業務です。各サービスのトレンドと併せて、その裏側にある技術やターゲットの行動論を身につけましょう。
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2022/1/26
寺岡 幸二 (著)