主体的なキャリア形成とは?労働市場の変化から「はたらく」を考える

皆さんにとって、「はたらく」ことはどんな意味を持つのでしょうか?そして、職業人生における「キャリア」について、どのような意識をお持ちでしょうか?

テクノロジーの急速な発展やコロナなどによる生活様式の変化により、生活そのものが仕事に与える影響が大きくなっています。不確実で不透明な世の中においては、「職業キャリアは個人が主体的につくることが重要」という意見を目にすることが増えているのではないでしょうか。

これまで日本においては、終身雇用こそ崩壊したと言われるものの、いわゆる「メンバーシップ雇用」と呼ばれる制度の中で、ジェネラリストの輩出を目的とした人材育成が主流でした。そのため個人としても「組織が従業員を育成するもの」という意識が強いように見受けられます。これが「ジョブ型雇用」の再評価などを理由に、個人が主体性をもって自身の能力開発に取り組む必要が言われ始めています。

それでは、「主体的にキャリアを形成する」とはどういうことなのでしょうか?

主体的という言葉の対義語に、「組織的」があります。ここでは、組織的と主体的の関係性を、これまでの労働市場の動向を追うことで考えてみましょう。

「はたらく」という漢字

そもそもですが、「はたらく」と読む漢字を、あなたはいくつご存知でしょうか?常用漢字は限られますが、辞書を紐解くと、いくつかの漢字があることが分かります。

いずれにしても日本語における「はたらく」は、怠けずコツコツと、そして骨の折れることを意味しているようです。そしてこれは、日本人が持つ「はたらく」イメージに最も近いのではないでしょうか。これには、「農耕民族型」と言われる日本陣の特徴が垣間見れます。※農耕民族型の対義語は「狩猟民族型」で、ゲルマン諸国等が該当するようです。

「はたらく」事の変化

農耕民族型の意識を根底にしながら、日本人は戦後の経済社会の中で著しく成長を見せていきます。そしてその変化の中で、各産業に従事する割合も、大きく変化していきます。

1950年代は、第一次産業の割合が最も多く見られました。しかし高度成長期を堺にその割合は減少し、第二次産業以上に第三次産業の割合が大きく増加しています。

第三次産業の内訳については割愛しますが、金融などの古くからある業種よりもその他の割合が増えており、新たな産業が増えてきていることを表しているようです。体験型の経済が昨今注目される中、労働力の多くも、そのような産業に従事することを求められています。

それに併せて、我が国における職業能力の開発方針も5年ごとに改変されています。厚生労働省が発表する、「職業能力開発基本計画」がそれにあたります。これまでの変化については、下記記事をご参照ください。

ここで注目したいのは、第9次以降に記述された、「全員参加型社会」というキーワードです。人生100年時代といわれ、これまでのロールモデルが崩壊する中、国民ひとりひとりが自立しつつ社会と繋がり続けることが必要となっています。

産業とはたらくこと、そして個人として社会とつながることは、より強く連携していくと考えられます。

AD

はたらく欲求と社会の変化

それでは、個人が「はたらく」ことに何を求めているか?について見ていきましょう。

令和元年の世論調査に、「はたらく目的は何か?」という項目がありました。これを年代別で見ると、高齢になるにつれて「お金のため」の割合に対し「やりがい」が増えていくことが分かります。

家族形成上、20〜40代は経済性が重視されることはもちろんですが、そこから開放されたあとは、マズローの「欲求五段階説」を表すかのように、自己実現へと向かっていくようにも思えます。

そしてこの欲求五段階説で考えた場合、安定志向を持ちつつも「承認欲求」が強いと言われる「Z世代」が社会に参加し始めている現代。これまでのような安全の欲求よりは、より高次な欲求をはたらく目的とする傾向は強くなると思われます。

これは、就業や企業を選択した上で、企業内におけるスキルやキャリアを構築していく「組織的なキャリア形成」ではなく、個人が”こうなりたい・こう見られたい”という欲求をもとに、社会の中で経験を積み重ねていく「個人的=主体的なキャリア形成」へと、すでに社会自体が変化してきていると考えられます。

主体的なキャリア形成に知っておきたい理論

ダグラス・T・ホール「プロティアン・キャリア」

プロティアン・キャリア」とは、米国の心理学者ダグラス・T・ホールが提唱する、「環境の変化に応じて自分自身も変化させる、柔軟なキャリア形成」のことです。ホールは、キャリアを次のように定義しました。

キャリアとは、生涯にわたる期間において、仕事に関する諸経験や諸活動と結びついており、個人的に知覚された一連の態度や行動である

ダグラス・T・ホール

キャリアは、その個人によって知覚され、評価されます。企業や他社という客観性も考慮する必要がありますが、変動が激しい現代において、客観性に流されるだけでは、自己評価を上げることは困難です。自ら主体的に変化させることが重要となります。

ちなみにプロティアンという名称は、ギリシア神話に登場する自分の意思で自由自在に姿を変えることができる神、プロテウスが語源となっています。

エドガー・H・シャイン「キャリア・アンカー」

キャリア・アンカー」とは、アメリカの心理学者エドガー・H・シャインが提唱する、「社会人が自らのキャリアを構築していく上で、どうしても犠牲にしたくない最も大切かつ不動な価値観」のことを言います。

価値観は、自身のキャリア観において上記の8つの分類がどれくらいを占めているか?を明らかにします。詳しくは、下記記事をご参照ください。

同じマーケターでも、この価値観の割合によってはたらくことの大切さが変わってきます。専門性が重視される分野においても、自身の価値観はしっかりと理解しておくことが重要です。


このように、はたらく状況や価値観は時代とともに変化し、自分自らの価値観を持って主体的に変化させていくことが大切となっています。

一方、“はたらく” = 義務ではなく、自己表現であり自己実現のカタチとする土台もできつつあります。主体的なキャリア形成を始めることを、自らを輝かせる最初の一歩と捉えて考えてみましょう。

関連書籍