【書評】日本発のマーケティング

  • 2020年7月19日
  • 2021年3月29日
  • 書評

日本においてマーケティングの理論や歴史、動向について語られる際、海外におけるそれらを日本に取り込むにはどうすればよいか?という観点である場合が多く見受けられます。

しかし、現代経営学の発明者と呼ばれるピーター・ドラッカーによれば、マーケティングの起源は、三越の前進である「三井越後屋呉服店」とされています。またドラッカーは、NPOの起源についても日本の「寺院」にあるとしており、社会貢献を重視したマーケティング・マインドは、日本本来の強みであることを示してくれています。

2021年度のウェブ解析士公式テキストを編集する際、「もしウェブ解析を海外に展開するのであれば、日本特有の文化をマーケティング理論として世界に発信する必要があるのではないか?」と考えていた中で手にしたのが、本書「日本発のマーケティング」です。

日本におけるメディアと消費者行動のファクトが充実した良書

本書が発売されたのは、2013年7月とすでに7年以上が経過しています。SNS活用のあり方は、この数年でも大きく変化しているものの、マスメディアの活用状況も含めた全世代を網羅する消費者行動論にとっては、本書は現在でも非常に有効なデータが数多く列挙されています。そしてそのファクトを基とした日本特有の行動理論につながっていく流れは、一読の価値が非常に高いと感じました。

既存のフレームワークを日本文化に置き換える創造性

本書でも注目すべき点は、「既存のフレームワークを、馴染みのある日本文化で置き換える」点にあります。

STPと「聞き耳」

フィリップ・コトラーが提唱したマーケティングフレームワークの1つに、「STPマーケティング」があります。

市場に対し「セグメンテーション」を行い、競争優位性を得られやすい「ターゲティング」と「ポジショニング」を決定していくプロセスは、時代とともにさらに細分化されたCRM(Cutomer Relationship Management)へと進化を遂げています。

これに対し、「はや耳」「聞き耳」「むれ耳」「そら耳」「とお耳」といった、「情報感度と採用度」を軸とした行動分析が、本書では行われています。中でも、関心分野が広くコミュニケーション能力も高い「聞き耳層」に以下にアプローチするか?が、本書の最後に提唱される「循環型マーケティング」では重要とされています。この理論に、新たなSTPマーケティングのありかたを目にした感覚をおぼえます。

イノベーション理論と「目利き」

例えば、サービスや技術が消費者にどのように普及していくか?を説明する「普及学」に「イノベーション理論」というものがあります。

新しいものが発表された際に「イノベーター」や「アーリーアダプター」といったそうから採用され、最後に「ラガード」と呼ばれる保守的な層にも採用されることで普及する、といったプロセスです。

本書で明確にこの理論が説明されているわけではありませんが、これを踏まえて各メディアにおける情報収集能力と精緻化・言語化に長けた「目利き」の存在はまさにアーリーアダプターやオピニオンリーダーを日本ならではの感覚で置き換えられたものです。

以前、とある飲料水メーカーのインタビュー調査における課題を抽出したところ、「調査対象となっている商品が何か?を分からずにインタビューに答えてしまう」といったものが上がってきました。これは決してパネルの抽出ミスではなく、ブランドを認知しようとすることすら、情報過多の時代では行動として行われないことを示しています。

そのため「”意見する消費者“の現在の消費意識をインタービューし、それを2年後の需要予測に活かす」といった事を行いました。まさに、「目利きによる需要予測」です。

このようなところにも、日本特有の表現によるマーケティングのあり方が見受けられます。

日本ならではの言葉でマーケティングをすることの重要性

消費者との永続的な関係を構築しようとするマーケティングにおいて、マーケティングそのものが非常に難解であり、かつ「マーケティングされることを嫌う」風潮があることも日本を知る上で重要な点だと感じています。

その中で、このような「日本らしいマーケティングのあり方」を考える一冊は貴重と言えます。特に「マーケティングとは何か?」を一度立ち止まって考えたい時になどおすすめな一冊です。