「マーケティング」とは何でしょうか。その言葉の定義は、マーケティングに取り組む企業だけでなく、有識者の立場によっても異なっているように思えます。そして、インターネットの普及により激変したコミュニケーションと一緒に、今後も変化していくものと思われます。
マーケティングは、それ以前にも長い歴史の中で変化をしてきました。マーケティングが何を意味するのか、その歴史とともに変遷を追ってみましょう。
マーケティングの意味を日本語で捉えてみる
「Marketing」という言葉は一見動詞のようですが名詞であり、もともとは「Market」が語源となります。ただし、Marketは市場という和訳がありますが、Marketingには和訳はありません。そして、市場には「いちば」と「しじょう」の二通りの読み方が存在します。
市場を「いちば」としても「しじょう」としても、Marketという英訳は変わりません。ではしじょうといちばはどう違い、Marketとは、しじょうといちばどちらを指すのでしょうか?
まず「いちば」は、次のように定義されています。
1. 毎日または定期に商人が集まって、商品の売買を行う場所。市(イチ)。「魚(ウオ)—」
2. 常設の設備があって、おもに日用品・食料品を販売する所。しじょう。マーケット。
広辞苑
続いて「しじょう」は、次のように定義されています。
1. 売手と買手が特定の商品を規則的に取引する場所。魚市場・卸売市場・証券取引所など。いちば。具体的市場。
2. 広義には、一定の場所・時間に関係なく相互に競合する無数の需要・供給間に存在する交換関係をいう。国内市場・国際市場・労働市場など。抽象的市場。マーケット。
3. 特定の商品やサービスの一定の購入者層。
広辞苑
どちらも似たような意味を持っており、かつマーケットという表記がされています。
メディアここれをどのように使い分けているのでしょうか?NHKのWebサイトては、次のように定義されています。
「イチバ」は、「場所」を言い表す場合、「シジョー」は、「経済的な機能」を言い表す場合に使います。
イチバ・・・・魚~ 青物~
シジョー・・・売手~ 買手~ 卸売~ 青果物~ ~価格 ~経済
NHK文研
Marketを広義の意味で捉えようとした場合、場所ではなく「経済的な機能」とした方が、「いちば」も内包できるため適切と考えられます。
これに対し、「Marketing」を行動や活動として当てはめると、「商品としての財貨やサービスが交換され、売買される経済的な機能」を「機能させる」ことがマーケティングであると理解できます。
あらゆるサービスには、売り手と買い手が存在します。どちらか一方だけが機能しても、売買は成り立ちません。「売り手と買い手双方の取引を機能させる事」が、マーケティングであると言えます。
マーケティングがカバーする範囲の広さは、取引を機能させるという「企業活動全体を指してしまう」ところにあります。企業に所属する個人一人ひとりがマーケティング活動の一部を担う為、どうしてもマーケティングが職業や一部門としては認識されづらい原因となっていると考えられます。
マーケティングの歴史
それでは次に、マーケティングはどのように変化してきたのでしょうか?その歴史を振り返ってみましょう。
マーケティングの起源
マーケティングは、欧米から日本に伝達されてきた概念と思われがちですが、実はそうではありません。
経営学者であり現代経営学の発明者として有名なピータードラッカーは、「マーケティングの元祖」として、「越後屋 (現在の三越)」を挙げています。

越後屋は、それまで「見世物商い」と「屋敷売り」といった富裕層に向けた商売であった呉服に対し、「店前現銀売り」や「現銀掛値無し」「切り売り」など、一般大衆に向けた商法で新たな市場を築きました。
顧客のニーズを満たし新たな市場を創造する、といった活動は、海外よりも日本で生まれたと言っても過言ではなさそうです。
マーケティング1.0
皆さんが最も想像するマーケティングの起源は、このマーケティング1.0ではないでしょうか?
19世紀に起こった第二次産業革命を皮切りに、大量生産・大量消費が行われるようになったことを背景に、効率よく生産するだけでなく、それを市場に投下し「売るための仕組みづくり」が必要となってきました。
その仕組みを分析し導くために、「4P分析」などのフレームワークが誕生します。

しかしこれはあくまで「製品を効率よく販売するための戦術立案」であり、経営学者のフィリップ・コトラーは、マーケティング1.0を「製品志向」と捉えています。
マーケティング2.0
経済成長とともに買い手が商品を選択する力も強くなってきた1970年代。それまでのプロダクトアウト(製品をいかに消費者に届けるか)なやり方では、価格や質の両方において消費者には選ばれなくなりました。
そこで「顧客のニーズを満たし、満足度をあげる商材」を開発し、提供するマーケットインを軸とした活動が行われるようになります。
そのためには、市場における顧客属性を分類し(セグメンテーション)、自ブランドの強み(ポジショニング)を活かせる顧客に向けた商材開発を行う(ターゲティング)必要になりました。
マーケティング1.0では特定のセグメントをしない「マスマーケティング」が主流でしたが、ターゲットを意識した「顧客志向」となったのが、マーケティング2.0です。
マーケティング3.0から4.0へ
1990年代〜2000年代に起こった第三次産業革命をもたらした大きな要因は、「インターネットの普及」です。インターネットは、それまでの消費者の情報伝達経路や購買活動を大きく変化させることとなりました。
一方で、経済活動はよりレッドオーシャン化(競争激化)し、これまでの経済活動によって破壊された自然環境や格差社会の誕生が問題視されました。
これらの要因から、マーケティング自体も「売る仕組みづくり」から、「社会を維持するための仕組みづくり」へと変化する事を余儀なくされます。この「人間志向」と言われるマーケティングが、マーケティング3.0です。
この流れは、その後のマーケティング4.0へと引き継がれ、上場企業においてはCSR(社会貢献活動)として開示されていたものが、現在では「SDGs (持続可能な開発目標)として、すべての企業において取り組むべき課題ともなっています。

デジタルマーケティングの今とこれから
このように、マーケティングは企業中心「売る仕組みづくり」から「顧客を満足させる仕組みづくり」を経過し、社会中心の「社会を維持する仕組みづくり」に変化してきました。社会の中で、企業と消費者がいかに良好な関係性を作るか?が重要視されるようになってきています。
それに対し、デジタルマーケティングにおいては、まだ「対象事業の成果 = コンバージョン」を目的に実行される事がほとんどではないでしょうか?
しかしながら、デジタルマーケティングにおいても、SNSを中心とした法令遵守の動きや、各国のCookie法のせいていなどにより、社会的な健全性が求められるようになってきています。
全てのモノがインターネットを解すようになり(IoT化)、オフラインとオンラインを区別することがナンセンスな状況が進む現状、デジタルマーケティングも同様に、「社会を維持する仕組みづくり」が求められることは必須と考えて良いでしょう。