“体験を買う”ということ – 航空業界の歴史と体験

旅客機コラム
この記事は約7分で読めます。

昨今のマーケティング・トレンドのなかでも一際重要なワードの1つに「Customer eXperience」(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験。以下、CX) があります。ユーザーの潜在的ニーズから顧客化以降までの「一連の体験と心理状況」を指す言葉ですが、皆さんは、関わる商材に対してどのようなCXを提供しているでしょうか?また、実際に意識して提供していると言えるでしょうか?

CXは、その瞬間のニーズを最適化するだけでは、部分最適化にとどまってしまうことも少なくありません。そして、「顧客が体験を買うということは一体どういうことなのか?」は、その時代の変遷と併せて理解する事も、重要なことです。白くなることが求められた洗濯洗剤に、生活のなかでのフレグランスが求められるようになったのも、時代の変遷によるニーズの変化と言えます。

そもそものサービスが時代とともに同変化してきたか?ここでは、「航空会社における座席クラスの変遷」を例に見ていきましょう。

旅客機の歴史

航空会社による旅客輸送が一般化し始めたのは、1930年代と言われています。第一次世界大戦での軍事利用による旅客機の性能向上を経て、米国から世界へと、国際線が広がりを見せていきました。

そして、第二次世界大戦が終戦した1950年代には、戦時中の技術が活かされたジェット旅客機が誕生します。(インターンネット然り、軍事の発達が生活を変えるのは皮肉なものです。)

ボーイング707 (引用:Wikipedia)

まだまだ飛行の信頼性は課題であったものの、ジェット旅客機の誕生は、「富裕層にとって新たな移動手段」として利用され、航空業界を大きく発展させることとなります。

しかしながら、あらゆる市場はその後大衆にも利用され、コモディティ化していきます。航空業界においても、1960年代には更なる機体性能の向上や輸送燃料費の低下などを受け、運賃の低下につながり、「広く大衆の移動手段」としても利用されるようになりました。

こうして、世界の旅客機乗客者数は年々増加傾向を示し、1999年では全世界で15億人超から、2019年には45億人超と、この20年でも約3倍の伸び率を見せています。

飛行機の事故率は自動車や船舶と比べてもかなり低く、格安航空券も普及した現在は、当たり前に利用される交通手段であることは間違いありません。

座席クラスの歴史

さて、それでは今の歴史に座席クラスを重ねてみましょう。ファーストクラスやエコノミークラスのような座席クラスは、いつ頃から始まったのでしょうか?

クラス分けがなく豪華な食事が振る舞われた1930年代

1930年代の旅客機は、乗客は高額な料金を支払うことができる富裕層に限られており、座席はファーストクラス相当のものしかありませんでした。機内食も、席にはテーブルクロスがかけられ、目の前で調理したものをいただくことができたようです。

富裕層にのみ利用することができた旅客機は、「贅沢を極めた空の旅」でした。

クラス分けが始まる1940年代

旅客機の収容人数の向上が進むと同時に、客船や鉄道が「上級席」と「普通席」と分かれる様に、旅客機もクラス分けが行われ始めます。ここで「ファーストクラス」と「エコノミークラス」が誕生します。

しかし当初は、航空各社がカルテル (企業連合) を結ぶことで料金体系に違いはなく、エコノミークラスは「ファーストクラスよりサービスが簡素のもの」という位置づけにありました。移動手段としては、少々高くついたようです。

機体のワイド化がもたらした乗客数増と座席分け

1950年代にジェット旅客機が誕生した際、前述のボーイング707などにより座席数を多く確保することができるようになった事を受け、格安航空券が市場に出回るようになります。

加えて、1978年の航空規制緩和によりカルテルは事実上解散し、各社がシートピッチや各種サービスの削減を行なうことで、移動手段としての価値を提供する現在のエコノミークラスへが形成されていきます。

より「空の旅の体験化」が進むファーストクラス

エコノミークラスのコスト削減が進む一方、ファーストクラスも進化します。当初はエコノミークラスとそれほど変わりなかった座席は、リクライニング機能やシートピッチ拡大などが行われ、現在では個室化も進んでいます。

また、サービス面でも機内食の種別や客室乗務員による丁重な接客等により、「空という空間をいかに体験として快適にするか」に重きが置かれているようです。

ファーストクラスとエコノミークラスの売上比率

ここで、1飛行あたりの売上構成を見てみましょう。それを理解するために非常に分かりやすい動画をご紹介します。

The Economics of Airline Class
The Economics of Airline Class

エコノミークラスが全席で$1,253の収益に対し、ビジネスクラスで$6,140、ファーストクラスでは$14,128の収益となっています。エコノミークラスの数百の席数に対して、ファーストクラスは十席程度。しかしながら、収益は逆に桁が違う結果となっています。

旅客機は、ファーストクラスの収益で運行されていると言っても、過言ではないでしょう。

実際にファーストクラスを”体験”してみる

それでは実際にファーストクラスを体験してみましょう。国際線ではかなりの価格となっていまいますが、国内線であればエコノミークラスの数倍の金額でファーストクラスを体験することができます。 ※シートはもちろん、国際線と国内戦でかなり違います。

仮にJALの場合、東京・羽田発で、札幌や福岡、那覇空港行きであれば、ファーストクラスでの搭乗が可能です。今回は羽田⇔那覇行きでファーストクラスを体験してみました。エコノミークラスであれば1万円前後ですが、ファーストクラスは5万円前後となります。 ※便によって運賃は変わります。

搭乗前の”体験”

JALファーストクラスの場合、保安検査場付近に「ダイヤモンド・プレミア ラウンジ」があります。

羽田
那覇

羽田、那覇ともに、各種ソフトドリンクやアルコール、軽食が無料で提供されており、電源やWi-Fiも完備されているため、多少早めに空港についてのんびり仕事をする事も可能です。

またこのラウンジ専用の保安検査場があり、混雑時でも行列に並んで待つことなく、搭乗口まで向かうことも可能。飛行前のストレスは、ほぼ皆無です。

機内・フライトの”体験”

ファーストクラスの場合、事前搭乗の次に優先搭乗で機内に乗り込みます。国内線の座席は、エコノミークラスやクラスJのシートと比べて、ゆったりとしたシートピッチに腰あても付いています。

そして座席に座るとすぐに、客室乗務員が「本日、担当いたします◯◯です。どうぞよろしくお願いします。」と挨拶にきてくれます。これだけでもこれからの安心感が大きく変わりますね。

JAL機内ではクラスJでもUSB充電ができるシートは期待によって限られていますが、ファーストクラスではモバイルバッテリーが付属されていました。昨今のJAL機内は各自タブレットやスマホでの動画視聴サービとなっていますが、これならバッテリー残量の心配をすることもありません。

そして、羽田⇔那覇間の2時間程度のフライトでも、しっかりとした食事が用意されています。

食事は、国際線のエコノミークラスで提供される食事と比べると格段に美味でした。パンは暖かく、食事も冷たく味気ないものではありません。そして機内でいただける日本酒には、JAL専用の特別純米酒もありました。

なにより、客室乗務員による飲食や室温などに対して、本当に手厚く対応をしてくれました。これまでのエコノミークラスではドリンクサービスも受けずにただ就寝して到着を待つことが飛行機内の過ごし方でしたが、まさに「空の旅」と言えるほどに充実した時間を過ごせました。

ちなみに、登場後の夜には、搭乗の感謝を述べるメールも届きました。これをサービスと感じるかどうかは人それぞれですが、手厚さとはそういうことなのかと痛感しました。


鉄道にしろ飛行機にしろ、目的地に付いてからを「旅」として、または普通席による仲間とのコミュニケーションを「旅」として体験することがほとんどではないでしょうか。

しかしながら、もともとは「移動できること」自体が優雅であった時代。その時間をいかに貴重な体験にできるか。そんな思いが、運輸業界にはあるのだと思います。

時代の変遷によるコモディティ化は、避けられるものではありません。しかし、曽の市場の中にも体験をもって対価が生まれるポジションは存在します。自分たちの商材が生む体験は、どんな時間を過ごすものなのか?

体験とは、時間の密度を示す尺度でもあると言えるのではないでしょうか。

タイトルとURLをコピーしました