プロフェッショナルマーケター マーケティング最先鋭の言葉(ダイヤモンド社)

  • 2020年1月28日
  • 2023年4月1日
  • 書評

ウェブ解析士認定試験を始めとしたマーケティングに関する資格試験の公式テキストで監修を務める早稲田大学の守口剛教授が、2019年末に一冊の書籍を発売されました。

著名なプロマーケターの言葉を紡ぐ一冊

「プロフェッショナルマーケター マーケティング最先鋭の言葉」と第された本著は、表紙から錚々たるプロマーケターの名前が並んでいます。

それだけで既にこの本の読み応えを想像するに難しくありません。そして彼らが経験から語る言葉一つ一つが学びとなるものであり、「マーケティングに携わる面白さ」を再確認できる一冊となっています。

体系化すべきは「型」ではなく、行動力の「言語化」

マーケティングに限らず、実務書を通じて読者に望まれるのは、読者が何らかの「行動」をとれるような知識を提供することにあるのではないでしょうか。しかし現実には「読者に向けた最適な『』を提供しようとしてしまう」ことがあります。

型には、3C分析などのビジネスフレームワーク以外にも5W1Hなどの思考的フレームワークも含まれます。誰もが知っているものほど、他者との会話の中で齟齬なく伝えられることができるのが最大のメリットです。しかし、それを学んで分かった気になっても、翌日からそのフレームワークどおりに物事を考え、実行できることは少ないのが現状です。なぜなら、ほとんどの現場が「応用」で成り立っているからに他なりません。

逆に言えば、フレームワークを教えて「学んだ気にさせるだけ」では、どんなビジネスも動かないし、学ぶ価値も少ないと感じます。つくる側として「これで良いのか?」と悩むことが多々あります。

もちろん、ちょっとしたデータの見方をを通じて行動を促すことはできます。これから解析を学ぼうとする方には、それなりの価値は与えられるかもしれません。でもそれは、「マーケティングの面白さ」を継続して感じてもらう要素にはならない。

自分は、「楽しんでコミュニケーションしながら自社市場をつくる」ことがマーケティングだと思っているので、そう思える人を増やせないのであれば、自分が存在する価値はないとも思っています。

この本には、そういった「型」に囚われたマーケティングの話は一切ありません。全てがプロマーケターによる「行動」の言語化でした。

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様々なワードの裏にある「行動力」

ネスレ日本における「P/L(損益計算書)」による行動管理は、経営指標まで追うことで市場定義と戦略策定が機能することを意味します。マーケター自らが「その立場にない」と思ってしまえば、自分のマーケターとしての価値は、そこで終わってしまうでしょう。

カルビーにおける「SDGs」は、ステークホルダーに向けて自分を正当化するための表現手法ではありません。売り手だけでなく買い手にも誠実であることで、本当の自分たちの消費員に責任を持ち、価値を提供できるようになります。

データ活用」に関しては、分析力や正確性よりも、実はその先の行動と成果を仮説立てできる「創造力」や「仮説検証力」の方が重要であり、データを量でなく質で感じ取れる感性も必要となります。

他にもたくさんの生の言葉が、この一冊には溢れています。このような「行動力」とそれを促す事ができる「言葉」こそが、本当に必要な知識だと強く感じました。

守口教授によるプロマーケターの行動に対する考察

プロマーケターの言葉によって構成される第一部と併せて、第二部では著者の守口教授による「プロの行動」に対する考察がなされています。

彼らに共通する「顧客志向」は、単なるユーザー視点のことではなく、顧客自体が気づいていない潜在的な意識に対する洞察と企業視点の徹底した排除とも言えます。それについて、彼らの言葉をしっかりと読み解いてまとめあげた考察は、非常に分かりやすい文章で伝えられており、マーケティングに携わる方だけでなく、全関係者にも伝えたい内容となっていました。

経営者からこれからマーケティングに関わる方まで、全員におすすめしたい一冊です。